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わかりそうでわからないパーパスについて

注目度が高まっている「パーパス」

最近、パーパスという言葉をよく聞くようになりました。
私が定期購読しているハーバードビジネスレビューでも、19年3月にパーパス20年10月にはパーパスブランディングという特集が組まれており、その注目度の高さがわかります。

今回は、パーパスについて上記文献やその他諸文献を整理し、わかりそうでわからないパーパスに関する私なりの理解を整理しておきます。もちろん、多種多様な先人たちによる文献・論文があり、ここに書くことはあくまでも私見です。

あえて「パーパス」という言葉が使われるのには理由がある

学生時代に「言語経済」という言葉を指導教官から教わりました。言語経済とは、同じ意味の言葉であれば死滅し、似ている言葉があるのであれば、そこにはそれが存在する意味があるという考え方です。言葉は経済的なので、無駄であれば削がれていき、必要があるから生き残ったり、生まれたりするわけです。

なので、昨今、パーパスという言葉が経営に関する言葉として登場し、認知されているのは、何らかの理由があると考えます。人生の比較的早い時期にこの言葉に触れたこともあり、類語の整理がとても好きなので、今回はパーパスを読み解いてみたいと思います。

ちなみに、言語経済という単語は、googleで検索しても出てきません。ただ、国語辞典の編著者である指導教官の用いる単語なので、私の覚え違いでなければ、言語学周辺のマイナーな専門用語なのではないかと思います。

パーパスは、単なる「目的」ではない

パーパスと聞いたときに「目的」という和訳が頭に浮かび、それと置き換えて考える人も多いと思います。実際に、パーパスという言葉を目的と置き換えて、区別なく使っている例も文献には多くみられます。ただ、「これからはミッションでもビジョンでもなく”目的”だ!」といっても、さっぱりわかりませんよね。もしかしたら頭の中で”目的”という言葉を整理して使っているのかもしれませんが、たぶん周囲には伝わっていないでしょう。

このように単なる「目的」という言葉に変換され、パーパス=目的という話であれば、目的を問う問い、例えば「何のために存在するのか」といった言葉でパーパスが明確にできるという話になります。そうなると、結果として、ミッションとパーパスの差異が見えないパーパス設定を行っている会社が現れるということになります。言葉を問い直すということは「そもそも何のため」という活動でもあります。単なる言いかえに合わせるために取り組んでいる風の活動をするのは不毛な活動です。

【余談】「目的」を問う問いは、「なぜ」になりがちです。「なぜ」を問うと「目的」ではなく「理由」が出てくることも多いのです。ただ、ここは今回は本筋とずれるので、パーパス設定時のファシリテーションのコツを書く時のために脇によけておきます。

パーパスは社内向けではなく、社外にも向けたものである

冒頭に、ハーバードビジネスレビューで特集が組まれていた話を書きました。デザイン思考周りで著名な佐宗邦威氏は、ハーバードビジネスレビュー2019年3月号の論考「パーパスブランディングを実践するために組織の存在意義をデザインする」の中でミッション・ビジョン・バリューとパーパスを区別しています。

その論考からいくつか抜粋します。

サイモン・シネックは、「現代はこれまで以上に社内外で共感を生むことが求められており、理性的・論理的なwhatよりも、whyやその具体表現としてのhowが重視され、経営者はそれを語るべきだ」と述べている

という記載がありました。サイモン・シネックは「whyからはじめよ」等で著名なコンサルタントです。私がここで注目するのは「社内外で」です。社内ではなく社外が含まれていることに最も注目すべきだと感じました。その理由は後述します。

そもそもミッション・ビジョン・バリューとは

もう少し抜粋を続けます。佐宗氏は、パーパスを語る前段として、ミッション・ビジョン・バリューを以下のように記述しています。パーパスという言葉は登場しませんが、パーパスを理解するために必要なことなので、引用します。

二十一世紀型組織は、その存在意義のコアであるミッションをwhyとして定義し、それをビジョンという形でわかりやすい表現に落とし込んで発信することで、組織の求心力を高める。そのうえで独自の組織文化を培うバリューをhowとして活用し、組織内外のプレーヤーとの共創力も高める。戦略であるwhatは、そのプロセスの中で創発され、結果として生まれてくるものだ。

やや難しい説明ですが、まず、ポイントは冒頭の「二十一世紀型組織は」という主題です。これによって「旧来型の組織については書いてないよ」という一線を引いています。その上で、MVVを説明し、記事の別な部分で「ミッションとは、バリューとビジョンのギャップをつなげるベクトル」、「バリューとはAS IS」、「ビジョンとはTO BE」といった説明をしています。他の定義とは少し違うかもしれませんが、ギャップアプローチに慣れた私たちには理解しやすい表現ではないでしょうか。

▼うち向けのMVVとは異なり、パーパスは外向けのもの

ここまでは、佐宗氏の論考から考えてきましたが、他の考えも整理しておきます。

ミシガン大学経営学大学院教授(組織行動論・人的資源管理)のロバート・E・クインは、パーパスを「社会全体の利益を支える貴重な貢献という視点」と述べます。また、グラハム・ケニーは、「パーパスとは組織を外から見つめるもの」としています。特に、組織自体を中心に据えるミッション・ビジョン・バリューとパーパスを対比しているのが特徴的でしょうか。

これらの考えをまとめると、パーパスはミッション・ビジョン・バリューの裏返しの存在なのだと感じます。組織、つまり自社を中心に据えるのではなく、社会、具体的には顕在的・潜在的顧客になりますが、それを中心としたものになるということです。

ここからはかなり乱暴な書き方をします。これまで、会社によっては、自社を中心に、「私たち」を主語にしたミッション・ビジョン・バリューという書き方をしてきたところが多かったのではないでしょうか。ただ、時代は「顧客価値」を中心とするようにシフトしました。なので、従来の社内向けの記述では、時代に対応することができません。なので、「顧客価値」を主軸にした捉えなおしが必要なのです。

以前「「価値」を中心に据えるトレンド変化を理解する-価値を中心としたパラダイムシフトとは!?ー」という講演をしました。この中で、カスタマーサクセスや顧客価値といったものがなぜ流行しているかをお話ししたのですが、これはお話しした話の延長にあるものです。実はパーパスもこのパラダイムシフトを象徴する言葉なのです。

ちなみに、補足すると、パーパスという言葉が出る前からミッション・ビジョン・バリューがパーパス型の記述になっている会社も多々あります。こうした会社にはパーパスを再設定する必要はないように思います。

とある食品会社のパーパスを読み解く

とある食品会社は2016年にパーパスを定義しました。そのパーパスは

「生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」

だそうです。さて、ここまで読んでいただいたみなさんは、このパーパスをどう読み解くでしょうか。

このパーパスをグラハム・ケニーの定義「パーパスとは組織を外から見つめるもの」に沿い、補足すると、「(私たちは)(顧客の)生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに(私たちは)貢献します」なのではないでしょうか。さて、これは果たして外向きでしょうか、それとも内向きでしょうか。

内向きであることは悪いことではありませんが、書きぶりだけを見ると、内向きな従来型のミッションの再記述に見えてなりません。パーパスであるならば、「(顧客は)(私たちと関わることで)生活の質が高まり、更に健康な未来がつくれる」という記述になるはずです。

比較してみてみましょう。
●「(私たちは)生活の質を高め、さらに健康な未来づくりに貢献します」
●「(顧客は)(私たちと関わることで)生活の質が高まり、更に健康な未来を生きる」

おそらく、社内ではそのように理解されているでしょうけれども、書きぶりだけを見ると、従来のミッション・ビジョン・バリューのパラダイムで書かれていて補足が必要にみえます。

従業員は、パーパスを通じて、パラダイムを転換し、「顧客価値」に目を向けることができます。旧パラダイムと新パラダイムの転換を踏まえずに、ミッション・ビジョン・バリューに焼き直し的にパーパスだというラベルを付けて再記述をしても、単なる不毛な活動であるように見えます。

最後に

ここまで書いたように、世の中は顧客の感じる「価値」、裏返せば自社が提供する「価値」に置き換わっています。

その背景を踏まえるとパーパスを記述するなら、これまでにミッションとの差がわかるように記述すべきです。具体的には、「私たちは」という従来型の記述は避けましょう。「私たちは」と明示的・暗示的に書くことそのものがプロダクトアウトの発想なのです。「顧客は」ないしは「社外は(世の中は)」どうなるかを記述する方が本来のパーパスの意図と沿っているのでないかと思います。

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