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性格心理学のルネサンス:五因子モデル(ビッグファイブ)

海

性格心理学の決定版「ビッグファイブ」

最近、ついにという印象ですが、ビッグファイブモデルという性格心理学(パーソナリティ心理学)のフレームワークに光が当たってきている気がします。

経営学者の入山章栄先生は、ハーバード・ビジネス・レビューの2017年9月号にて

人の性格の分類は、80-90年代にオレゴン大学のルイス・ゴールドバーグらの功績により5つに集約され、コンセンサスとして固まってきている。それをビッグファイブと呼ぶ。

としており、経営学でのコンセンサスであると述べています。

昨年12月にビッグファイブが通用しない事例が登場したところが、アメリカ心理学会記事になるほどに、その信頼性は高いものとなっています。

私は2010年に心理学専攻のパートナーと組んでビッグファイブを用いた研修を開発しました。まだ、コンテンツ開発者としては駆け出しでしたが、不動産業界大手の会社で長年使っていただけるコンテンツを開発できたのは懐かしい思い出です。(こうしてみると、当社はウェブサイトに何も書いていないですね・・・反省です。)

実は馴染みの深い「性格」の分析

性格心理学は、私たちにとっては比較的馴染みの深いものです。「あの人って、几帳面だよね。」といったものです。例えば、血液型診断、動物占い、生まれ年といったものも、「学」ではないかもしれませんが、人の性格を説明しようという取り組みだといえます。それと比べて、心理学は学問ですので、実証的に研究が積み上げられてきています。ビッグファイブはその集大成とも言えるものです。

性格は、先天的・後天的でキャラクター・パーソナリティに区別されるともいわれますが、昨今は心理学分野と遺伝学や脳科学がつながり、両者の区別は曖昧になってきているようです。一方、心理学分野だけではなく、遺伝や脳科学とつながったことで信頼性の高いものになりつつあります。

性格心理学の歴史

まず、性格心理学を説明しながらビッグファイブを説明します。(wikipedeiaの記載がとても詳しいので、そちらも併せて御覧ください。)

性格心理学には歴史があり、「類型(type)論」「特性(trait)論」「因子論」と変遷しています。ビッグファイブは因子論に属します。

類型論とは

類型論は、人の性格を類型に収めようとする取り組みです。例えば、古くはヒポクラテスの四体液説のようなところから始まり、筋肉質の体形の人はこんな性格で、太った人は・・・といったクレッチマーのものや、人の性格を2軸で4象限に分けて・・・といったものなど色々とあります。上述した血液型診断などもこれでしょう。類型論のわかりやすさは群を抜いています。巷間に普及しやすいのがよくわかります。研究が進み、決定版があるのにも関わらず、血液型占いが廃れないのは普及力によるものでしょう。ただ、人間は数個のタイプで分けられるほど単純ではありません。類型論は現在は相関関係に強い疑問が持たれています。

特性論とは

そこででてきたのが特性論です。特性論は、人の複数の特性を見て、その強弱で性格を見ようという取り組みです。重要なのは、特性の有無といったバイナリ型ではなく、特性を連続体としてとらえている点です。例えば、仮に判断が速い・遅いという軸があったならば、速さ0(=遅い)が徐々に1,2,3と高まっていくと速さ10で早いとなるものです。人に説明する際に、最もわかってもらいやすいのは、ロールプレイングゲームでのパラメーターです。性格ではありませんが、力10,賢さ5,素早さ6・・・といったものは比較的馴染みがあるのではないでしょうか。

これであれば表現することは容易です。しかし、新たな問題がでてきました。性格を表す特性は、1000を超えるのです。研修業界でもよくある話だと思いますが、主導特性が・・・人間関係志向が・・・外向性が・・・直感型が・・・といったものが乱立していると、同じ性格診断テストを受けた人との間でしか、相互理解が進みません。かくして、●●グラムがよい、四象限でわけるシンプルな性格診断がよい、16に分けるのがよいといった流派の乱立や資格ビジネスにつながっている現状があります。(※●●グラムも16に分ける診断も複数あります。特定の診断の良し悪しを否定するものではありません。)

因子論とは

ここで登場するのが因子論(five-factor)です。

様々ある特性と特性の相関を取ると、相関係数が比較的高いものがあります。「パーティーが好き」と「旅行が好き」といった性格であればある程度関係があるというのは直感的にわかるでしょう。しかし、そうしたものばかりではありません。競争が好きと社交が好きといった一見して相関しているとはわかりにくいものもあります。こうしたものには調査によって相関があることがわかります。こうした相関の高いものは特性として一つ一つ扱わずに「外向性」として納めて「因子」とした方が個別に語るよりも整理しやすいのです。

このように数千もの要素の相関を丁寧にとっていった結果、最終的にまとまった数が5つだったので、「ビッグファイブ」ということになったのです。(因子と言いながらも特性の一つだという考え方もあり、five-factorを略してFFと呼びやすいから区別されているという考え方もあります。)

ビッグファイブのすごさとはなにか?

ビッグファイブについて私が「すごい」と感じたポイントを研修開発の観点から3つ挙げます。この3つのポイントは、研修業界で数々の診断系のものを見てきた人にとっては驚くべきポイントなのではないかと思います。

過去の研究がすべて包含されている

まず、最も信頼性が高いだけでなく、これまでの過去の研究をすべてその中に統合できていることです。例えば、気質を3つに分けるといったものや、16種類に分類するといったものもその中に含められます。研修の業界では、様々な私企業の診断が乱立しがちですが、ビッグファイブがあれば、それらの性格診断をするまでもないということになるのです。

わずか12問でわかる

次に、質問数の少なさです。ビッグファイブを測定するには問題数が12問(ニューカッスル・パーソナリティ評定尺度表)でよいのです。「12問の質問で性格が診断できる」というと、本当かと思われますが、50問近くの質問(IPIP)で行った結果と相関をとった際に、すべての項目に0.7以上の相関が見られたそうです。これが本当に驚くべきことです。(ニューカッスル・パーソナリティ評定尺度表については、ニューカッスル大学のダニエル・ネトルのウェブサイト等をご確認ください。)

研修業界では、

  • 長時間かけて質問に答えないとならない
  • 専門家による分析が必要なので、分厚い冊子を使って回答して郵送もしくはオンラインで回答する
  • 専門家によるセッションがかかせない
  • 1名いくらの課金で人数が多いと莫大な金額になる
  • 著作物なので自由に使えない
  • 項目が多いためにブラックボックスが多く、ロジックがわかりにくい

というものが多かったのではないでしょうか。

ビッグファイブによって、これらはなくてもなんとかなることがわかってしまいました。ビッグファイブの診断を行うには、10円玉で削る高価な印刷費をかけて作られたテスト用紙も、テスト用紙の郵送も、専門家によるフィードバックも、分厚い冊子も、はたまたオンラインサイトにコードをいれて診断することもいらないのです。(ビッグファイブがこれまで流行らなかったのは「ビジネスになりにくい」ことによるものだと思っています。なぜなら、誰でも診断できて自由に使えてしまうのですから。)

研修は時間との戦いです。5分もかからずに診断できることになにかデメリットはあるでしょうか。重厚感はないかもしれないですけれども。

結果が変わらないから何度もやらなくてよい

最後に、その時の気分、もしくは時間の経過によって、結果がほとんど変わらないという点です。結果が変わらないものであるということは、複数回やる必要がないということです。性格のように関心の高いものは、そのときどきで別な業者の別なものを様々受講することがありますが、それは必要ないのです。

ビッグファイブの「ファイブ」とはなにか?

さて、ではビッグファイブとはどんな5つの因子なのか。

詳細は、専門家ではない私が書くことではありませんので、ぜひ書籍を買って読んでみると良いと思います。私はビッグファイブ関連本は5冊ほど読みましたが、ダニエル・ネトルの「パーソナリティを科学する」がオススメです。(ネット検索は、SEOのために記事を書いているネットの又引きの業者が多いので、あまりおすすめしません)。

私がここで書きたいのは、ビッグファイブは英語では1つだが、和訳すると様々な和訳が乱立しているために「5つの要素それぞれの和訳が異なるために違うものにみえちゃうよ問題」を整理したいためです。せっかく統一されているのに、日本語でばらついているとおかしなことになりますので。

ビッグファイブは

  • Openness
  • Conscientiousness
  • Extroversion
  • Agreeableness
  • Neuroticism

の5つで構成されます。日本人だと、見慣れた単語ばかりだという人はおそらく少なく、学校で教わった記憶のある単語の方が少ないのではないでしょうか。複合語でとにかく長いものばかりです。

ビッグファイブの様々な和訳

和訳には様々なものがあてられています。手元の文献5冊とwikiを並べて整理をしてみました。()内は登場数です。
●Openness:開放性(3)、経験への開放性(2)、遊戯性-現実性(1)
●Conscientiousness:誠実性(3)、真面目さ(1)、堅実性(1)、統制性-自然性(1)、ほかにも良心性、勤勉性等も。
●Extroversion;外向性(5)、外向性-内向性(1)
●Agreeableness:協調性(3)、愛着性―分離性(1)、調和性(1)、同調性(1)
●Neuroticism:精神的安定性(1)、情緒安定性(1)、情動の安定性(1)、情動性―非情動性(1)、神経質傾向(1)、神経症傾向や楽観性も。

開放性と外向性以外は定訳が少ない印象です。また、各書籍に診断が掲載されていますが、それぞれ質問紙が異なります。質問紙の差、そして質問数の差によって結果が異なるかどうかについては、当社のインターン生が実験したところ、どの調査でも差がないという結果になりました。(ネットで落ちていたものと、古い雑誌に掲載されていたものの2つは差がでました。)

私は心理学者ではないので、●●性でまとめる必要がありません。また、厳密さよりも、雑でもざっくり伝わる方が大切という考え方なので、2016年に再開発を行った際には「知的好奇心の強さ」「まじめさ」「社交的で活動的」「他人へのやさしさ」「不安や緊張の感じやすさ」で超訳したりしています。(また、訳を増やしてしまいました・・・)


今回はビッグファイブについて書いてみました。前回のコラムの続編という位置づけです。当社は講義型研修(講義+ワーク)も多々提供していますが、ゲームではないものは、裏コンテンツとしてあまり表に出していません。たまたま2021年の今、再び提案する機会をいただけたのでメモとして書いておきます。次回は、当社で開発したビッグファイブを用いた研修の中身を少しだけ紹介いたします。

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