先日、人材不足・人手不足解消EXPO【PEREX】に出展してきました。当社としては実に2012年以来の展示会出展となりました。
久々の出展に至ったのは、展示会のテーマが「人材不足・人手不足」だったからです。
そもそも、人材不足と人手不足はごっちゃになりがちですが、人手不足とは量的な不足、つまり人員不足を指します。一方、人材不足は量的に充足しているかではなく、人材の「質」が充足しているかが論点になります。更には、良い職場環境があるのかも扱います。「良い」には不満が少ないとか、エンゲージメントが高いとか、さまざまな含意がありますが、「質」という点で「人が育つ」職場環境が論点となります。人材不足については、当社は専門性を持っておりますので、出展する意味があると感じられました。
また、主催者様から「体験ブース」での登壇のご依頼を頂きました。来場者に「体験」を提供したいという趣旨からくるものです。主催者様のご厚意のありがたい機会ですので、本企画に参加するために複数日程で来場する方が増えればと、3日間で全て違う企画を「人材不足」という展示会のテーマとつながる形でご用意しました。もちろん、当社はプロダクトアウトではなくソリューションを社名の冠としている会社ですので、商品名は出さず「何が解消できるのか」をタイトルに打ち出しました。
ただ、体験型研修は「時間をかけて深く学ぶ」手法で、そもそも30分では難しく、触りだけでは、意味ある体験にはなりません。更に、当社のことを知らない方々であることを踏まえると、会社説明・ルール説明・簡易ゲーム・講評をする必要があります。なので、1.5時間以下の研修はお請けしない方針の当社としては、ある種のゲーム研修の脱構築をすることになり、ゲームを使わないシンプルすぎるやり方にもチャレンジする機会となりました。
3つの切り口で挑んだ人材不足解消のヒント
さて、以下がセミナーのタイトルです。
- ゲームでやりがいを引き出す!ジョブ・クラフティングを体験
- ハラスメントのグレーゾーンをゲームで認識合わせ!?
- 凹んだ気持ちを切り替える!?ゲームでレジリエンス体験
テーマには、ジョブ・クラフティング、ハラスメント、レジリエンスを選びました。
それぞれ、耳にしたことがある方もいない方もいるでしょう。また、耳にしたことがあっても、意味が曖昧なまま理解している方も多そうなテーマです。
それぞれを当社のいつもの研修のように「しっかりと」「忘れないように」理解してもらうために、言葉の意味をきちんと説明し、記憶に粘りつくように、また、役立て方、ゲームの内容、簡易的な体験と意味付けをしつつ、30分で魅力を感じてもらうようにしました。この制約はかなり厳しいものでしたが、楽しい体験でした。
さて、これら3つのテーマはどう人材不足とつながるのでしょうか。
人手不足・人材不足との関係―ハーズバーグの二要因説から
まず、ハーズバーグの二要因説を説明します。人材開発の方にとってはモチベーション理論の古典として常識でも一般の方にはなかなか知られていないのが「ハーズバーグの二要因説」です。二要因説では、不満につながるものと満足につながるものを分けて考えます。ないと不満につながる一方、あったからといって満足するものではないものを衛生要因、あると満足する一方、ないと不満につながるものを動機づけ要因と呼びます。
例えば「ハラスメントがない」「法令順守」は衛生要因です。ハラスメントがないのは当然のことで、それがなくなったからといって満足感が高まるものではありません。ハラスメントがあると不満になるが、満足は得られないのです。
エンゲージメントの高い職場を目指し、サーベイレポートを基にした相談を人的資本経営の絡みでよくいただくようになりましたが、衛生要因をなくそうという取り組みを重視する会社もあれば、動機づけ要因の向上を図る会社もあります。ただ、そもそもどれだけ満足していても不満だらけではよい職場にはなりません。
不満があれば人は逃げ、人手不足になります。また、成長する環境がなければ人材不足になってしまうのです。
これらのうち、テーマとして選定したものは人材不足に関するものですが、関連性を説明します。
ジョブ・クラフティング:仕事の意味を再発見する仕掛け
ジョブ・クラフティングは、ジョブ(仕事)を自ら「クラフティング」(手作り)することです。ジョブ・クラフティングは、実はジョブ・クラフティングというものがあるのではなく、タスク、リレーション、コグニティブと3つに分類されます。これらの三分類のうち、今回は「コグニティブ・クラフティング」を扱いました。
コグニティブ・クラフティングは特に仕事に「マンネリ」を感じている対象には有効な手法です。人手不足・人材不足は、日々が同じ毎日の繰り返しといったときにも起こります。きちんと仕事をしているからといって満足しているとは限らないのです。
コグニティブ・クラフティングにもいろいろな手法がありますが、今回は、事例も紹介したかったので、先日、「マンネリ」に悩む48名を対象に実施し、全員が「仕事に誇りを持てた」と回答した実績のあるツールを用いました。仕事の意味を「顧客価値」の観点で理解し、会社から与えられるものではなく、自ら作る(クラフティング)するものだと分かる研修として、「かちかち山」というツールを使用し、「顧客価値」の検討を行いました。
特に、「キャリアは圧が強い」「キャリアを考えるのは心理的安全性が低い」という話を中心に構成したのが特筆すべき点です。キャリアを追い求めさせられることにプレッシャーを感じる人が増え、キャリアデザインの研修が下火になる中で、どう「今、ここ」に注目させるのか。この手法がジョブ・クラフティングなのです。(ご興味ございましたら、ジョブ・クラフティングのウェビナーをご覧ください)
価値についてのインプットでは、回転寿司を例に挙げ、「安いから」「楽しいから」「友達や家族と充実した時間が過ごせるから」「チェーン店は安心できるから」などのさまざまな価値を示しつつ、カードを使って価値を話し合う時間を取りました。「あなたの仕事の価値を話してください」と言われて話せる人は少数派です。しかし、カード化されていれば誰にでも考え、選ぶことができるのです。
ハラスメント対策:法令順守を超えて
ハラスメントは、誤解の多い分野ですので、よくある誤解から丁寧に説明しました。昨今は、法令順守―法令に違反しなければよい―から、良い職場に視点が明確に移行しています。SDGsやESGなどもそういった流れからくるものと思います。特に、ハラスメントは状況的なものであり、個々の関係や状況、立場等によって決まってきます。なので、法令順守ではないハラスメントという観点も必要です。
昨今の東京都のカスハラ条例を引き合いに出し、「線引きを示す」ことを研修に期待する従業員が多いですが、「ここまではやってよい」を示すことになり、むしろハラスメントを増やすことを話しました。更に、法解釈を断定的に話すのは非弁行為であり、弁護士資格のない研修会社の講師に依頼するのは難しいと話しました。
また、「あなたは潜在的な加害者であり、気づかずにハラスメントをしかねない」というアプローチは心理的安全性が低く、このため防衛的な反応を促し、ハラスメントがむしろ増加するという研究結果を伝え、その解法として第三者介入についても言及しました。
ハラスメント対策は態度変容が主な効果となりますが、態度変容は行動として見えにくく、効果がないと思われがちです。第三者介入では、当事者にならず、被害者と加害者を見ている第三者となることから、「どう介入するか」という行動を考えられます。もしそうなったらこうすると考えておく「IF THEN PLANNING」という手法も併せて紹介しました。
体験としては、「ボスの品格」を紹介しつつ、今回向けの独自ルールで数枚のカードを取り上げ、指でハラスメント度をだしてもらう運用を行いました。
レジリエンス-ぴょんと戻る力の育て方
レジリエンスは、jump-back(跳ね返る)という意味であり、「ぴょんと戻る」ことを指す言葉です。今回はポジティブ心理学やウェルビーイングと絡めてお話しし、レジリエンスの中でも特に、逆境時の認知的な切替えを扱いました。
レジリエンスは、日常をどう生きるか、非常をどう克服するかという両面的な視点を持つ考え方です。ハーズバーグの二要因説は組織の話ですので、個人に落とし込みにくいかもしませんが、非常の出来事とは、リスクが顕在化した状態、つまりクライシスであるともいえます。クライシスが頻繁に起こる状態というのは、どちらかというと不安全な状態ですから、それが少ないというのは心理的な脅威が少ないと言えるのです。これには重要な示唆があります。「ある出来事が衛生要因として認識されるかは、実は認知の問題」なのです。同じ状況でも、人によってクライシスと捉えるか否かは異なります。もちろん、そもそものリスクがないに越したことはありませんが、全てを完全になくすことはできませんから、組織として、個人のレジリエンスに手を打っておくことは重要です。また、個人のレジリエンスの高さは離職や休職の減少、引継ぎなど人的負担を軽減、採用コストの低減など、具体的なコストメリットがあるのです。
少し難しく書きましたが、私たちは「レジリエンス」の研修をすることはありますが、現場に「レジリエンス」といってもほぼ伝わりません。平易に、分かりやすく、ゲームで実際に使用するカードをスライドに投影し、私たちが研修で用いる「マジック」を紹介することで、考えるお役に立てたのではないかと思います。
体験としては、「モチベーションマジック」を紹介しつつ、5つあるマジックのうち、2つのマジックを使って実際に気持ちの切り替えを実践してもらう運用を行いました。
最後に
厳しい制約が私たちのできることを増やしてくれます。もちろん、30分で研修を行うことは未来永劫ありませんが、30分でどこまでできるかということを考えさせられた良い機会となり、主催者側から撮影やインタビューも入るほどに盛り上がる良い場づくりができたと思っております。
関連リンク
ハラスメント研修に対する直感に反する研究結果(1)-禁止行為を伝える研修は逆効果-
公開日: 2025年7月1日